奨学金を調べていると、「所得制限」という壁に最初にぶつかります。「うちは対象外かもしれない」と、調べる前にあきらめてしまう人もいるかもしれません。
実際のところ、所得制限はどうなっているのか。このサイトで調査した48件の奨学金について、所得制限の有無とその基準を整理しました。
所得制限がある制度、ない制度
48件の奨学金のうち、32件(67%)に所得制限が設けられていました。残りの16件(33%)には所得制限がありません。
「給付型奨学金=低所得世帯向け」というイメージがありますが、3件に1件は所得制限なしで応募できる制度でした。
所得制限なしの16制度
以下の制度は、世帯年収に関係なく応募できます(成績要件や分野制限などの他の条件はあります)。
なお、このリストは当サイトにおける「所得制限なしの制度リスト」の正本として、本記事で一元的に維持・更新しています。他の記事や比較ページで所得制限なしの制度に触れている場合も、最新の一覧はこの表が基準となります。
| 制度名 | 月額目安 | 選考で重視されるもの |
|---|---|---|
| 本庄国際奨学財団 | 18万〜23万円(支給期間別) | 研究計画・人物 |
| 中谷財団 | 12万〜20万円 | BME分野の研究(所得証明の提出も不要) |
| キーエンス財団 | 12万円 | 学業・経済状況・小論文の総合選考 |
| 山田長満奨学会 | 12万円 | 小論文・面接(「所得制限は設けない」と公式明記) |
| 帝人久村奨学金 | 10万円(博士課程) | 成績・研究への熱意 |
| 吉田育英会 | 8万円(学校納付金型との選択制) | 研究計画・成績 |
| 伊藤謝恩育英財団 | 7万円+入学一時金40万円 | 高2評定3.8以上(高3予約型) |
| 戸部眞紀財団 | 6万〜7万円 | 5分野の成績(※応募資格に「学資の支弁が困難と認められる者」があり、家計は選考の審査対象) |
| 博報堂教育財団 | 5万〜10万円 | 教員志望・人物(公式リーフレットのQ&Aが所得による制限を否定。2026年度応募要領にも所得・年収・家計の要件は記載なし) |
| JEES 給付型奨学金 | 5万円 | 学業成績(主に私費外国人留学生対象) |
| 鷹野学術振興財団 | 5万円(年額換算) | 理工系の成績 |
| コカ・コーラ教育・環境財団 | 2万円 | サステナビリティへの関心・人物 |
| トヨタ女性技術者育成基金 | ※貸与型(実質無利息・年60万円相当) | 理工系女性 |
| 岩國育英財団 | 約3.3万円 | 人物重視 |
| 明治大学 特別給費奨学金 | — | 入試成績 |
| 立命館大学 西園寺記念奨学金 | — | 成績上位者(学部がGPA順に自動選考) |
※ 各制度の詳細は個別ページをご確認ください。 ※ 2026年7月22日更新(横断監査): 公式再確認により、初版で「所得制限なし」としていた重田教育財団・旭硝子財団・服部国際奨学財団・似鳥国際奨学財団の4件は、実際には家計基準・家計審査があることが判明したため「所得制限あり」側に移しました。逆にキーエンス財団・コカ・コーラ教育・環境財団は「応募にあたっての所得制限なし」と公式に明記されていることが確認できたため追加しています(両財団とも選考では経済状況を考慮)。JEES給付型は所得基準の明記が公式ページで確認できなかったため「なし」に分類しています。 ※ 2026年7月22日更新(第2弾監査): 4月作成分15財団の再検証で、山田長満奨学会(「所得制限は設けない」)・博報堂教育財団(リーフレットのQ&Aが所得による制限を否定)・中谷財団(所得証明の提出不要)は公式の明文が確認できました。一方、戸部眞紀財団は収入の数値基準こそないものの「学資の支弁が困難と認められる者」が応募資格で家計が審査対象と判明したため、上表に注記を加えました。また「非公表」と書いていたダイオーズ記念財団・川村育英会・マブチ国際育英財団の3件は、実際には具体的な基準額が公表されていました(下のパターン2の表に追加)。 ※ 2026年7月31日更新: 「調べてみて気づいたこと」セクションを新設しました。また、「所得制限なしの制度リスト」は本記事を正本として一元管理する方針とし、他の記事のリストは本記事への参照に集約します。
所得制限のパターンを整理する
所得制限があるといっても、制度によって基準はまちまちです。調べた結果、大きく4つのパターンに分類できました。
パターン1: JASSOの区分制度(具体的な金額を公開)
JASSO給付型奨学金は、住民税の課税額に基づいて4つの区分(第I〜第IV区分)に分かれています。公式の目安表では、4人家族(片働き・本人+高校生)の場合で第III区分が世帯年収約461万円以下、最も広い第IV区分(多子世帯・私立理工農系のみが対象の特殊枠)が約698万円以下とされています。判定の実際の仕組みはJASSOの区分と年収目安の記事に詳しくまとめました。
2026年7月更新: 初版では第IV区分の目安を「4人家族で世帯年収約380万円以下」と記載していましたが、これは旧制度(3区分時代)に近い古い数字でした。現行の公式目安表に基づき修正しています。
JASSOの基準は他の制度でも参考にされることが多く、JASSO第一種の家計基準に準じると記載している民間財団もあります。
パターン2: 具体的な金額を公開している制度
2026年7月の横断監査で各財団の募集要項まで確認した結果、具体的な収入基準を公開している制度は当初の想定より多いことがわかりました。
| 制度 | 公開されている基準 |
|---|---|
| 大林財団 | 父母の税込年収合計が原則800万円以下 |
| ダイオーズ記念財団 | 給与収入世帯は世帯合計年収600万円未満/給与以外はその他所得150万円未満 |
| 川村育英会 | 父母及び生計を一にする家族の年間収入が原則600万円以下(令和8年度。令和7年度は500万円以下) |
| マブチ国際育英財団 | 世帯収入600万円未満 |
| 似鳥国際奨学財団 | 世帯収入目安900万円以下(目安であり超過でも応募可) |
| 三菱UFJ信託奨学財団 | 父母の年収合計が税込1,000万円未満 |
| 電通育英会 | 両親の住民税課税所得の合計が350万円未満相当 |
| 慶應義塾大学 学問のすゝめ奨学金 | 父母合算で給与・年金収入1,200万円未満/事業所得792万円未満 |
| 交通遺児育英会 | 3人世帯目安: 給与収入940万円以下/自営所得520万円以下(大学等・貸与型) |
| JT国内大学奨学金 | 給与年収400万円未満(※2020年度以降募集終了の旧制度) |
パターン3: 「経済的困難」とだけ記載
一方で多くの民間財団は、「学費の支弁が困難な者」「経済的理由により修学が困難な者」といった表現にとどまっています。具体的な年収の上限額が公表されていないため、自分が対象になるのかどうかが応募前には分かりにくい状態です。
該当する制度の例:
- アイザワ記念育英財団 — 「学資の支弁が困難である者」
- 日鉄鉱業奨学会 — 「経済的理由により学資の支弁が困難と思われる者」(家計支持者の年収証明書を提出)
- 服部国際奨学財団 — 「経済的理由により修学が困難であり、奨学金による支援を必要とする方」(数値上限なし・収入や資産は審査の判断材料)
- 重田教育財団 — 「経済的な理由により留学費用の支弁が困難であること」(海外留学向け・所得証明書の提出あり)
- 旭硝子財団 — 「学資の支援が必要と認められる者」(家計を支える全員の収入証明書を提出)
パターン4: JASSO基準に準拠
一部の民間財団は、JASSO第一種の家計基準に準じると明記しています。JASSOの基準は公開されているため、この場合は間接的に金額が推定できます。
- 森下仁丹奨学会 — JASSO第一種の家計基準に準拠(令和8年度募集要項は「日本学生支援機構第1種に準ずる。大学院生についても日本学生支援機構の学部生と同等の家計基準を適用する。」と記載)
「所得制限あり」でも対象範囲が広い場合がある
「所得制限がある」と聞くと対象外だと感じるかもしれませんが、基準によっては広い範囲の世帯が対象になります。
JASSO給付型は4人家族で第III区分・世帯年収約461万円以下が目安(多子世帯等の第IV区分なら約698万円以下まで広がります)ですが、大林財団は800万円以下です。民間財団の「経済的困難」の基準がどのあたりに設定されているかは、応募してみないと分からないケースも多いです。
「自分は対象外だろう」と決めつけず、まずは募集要項を確認してみることが大事です。
所得制限なしの制度の特徴
所得制限がない16制度には、いくつかの共通点がありました。
成績・研究能力で選考する制度
最も多いパターンです。帝人久村奨学金(公式は「本奨学金では、経済的困窮度よりも、成績、本人の研究への熱意・長期ビジョン、取組み内容、主体性・独創性を総合的に評価して選考します。」と明記)、吉田育英会、中谷財団、鷹野学術振興財団など、理工系・研究系の財団に多く見られます。
入試成績で判定する制度
明治大学 特別給費奨学金は対象3学部の入試成績上位者が自動的に対象になる、いわゆる特待生型の制度です。家計状況は選考に関係しません。立命館大学 西園寺記念奨学金も、直前学期のGPAをもとに学部が自動選考する方式で、申請自体が不要です。
人物・活動実績で選考する制度
岩國育英財団は成績不問・所得制限なしで、人物重視の選考です。キーエンス財団も応募時の成績基準・所得制限がなく、学業成績・経済状況・小論文による総合選考です(所得は応募の足切りには使われませんが、選考では考慮されます)。
分野・対象を限定する制度
トヨタ女性技術者育成基金は理工系女性限定、戸部眞紀財団は化学・食品科学・芸術・体育・経営の5分野限定です。対象を絞ることで、所得制限を設けない代わりに他の条件で選考しています。
所得制限と成績要件の関係
参考として、所得制限と成績要件の組み合わせを整理しました。
| 成績要件あり | 成績要件なし | |
|---|---|---|
| 所得制限あり | 多数(最も一般的なパターン) | あしなが育英会、交通遺児育英会、重田教育財団(海外留学)など |
| 所得制限なし | 帝人久村奨学金、吉田育英会など | 岩國育英財団、キーエンス財団、コカ・コーラ教育・環境財団、中谷財団、トヨタ女性技術者育成基金(※貸与型) |
所得制限も成績要件もない制度は48件中5件と少数ですが、存在はしています。
調べてみて気づいたこと
48件の所得制限を分類し、2026年7月の横断監査で全件を公式再確認する過程で、いくつか構図が見えました。
- 「所得制限なし」は一枚岩ではない。 同じ「なし」でも中身には幅がありました。山田長満奨学会(「所得制限は設けない」)や博報堂教育財団(公式リーフレットのQ&Aが所得による制限を否定)のように公式が明文で否定している制度、中谷財団のように所得証明の提出自体が不要な制度、キーエンス財団・コカ・コーラ教育・環境財団のように応募にあたっての所得制限はないものの選考では経済状況を考慮する制度、戸部眞紀財団のように収入の数値基準はないが「学資の支弁が困難と認められる者」が応募資格に入っている制度まで並んでいます。「制限なし=家計を一切見ない」とは限りませんでした
- 初版の「所得制限なし」分類は4件が誤りだった。 横断監査の結果、重田教育財団・旭硝子財団・服部国際奨学財団・似鳥国際奨学財団の4件は、実際には家計基準・家計審査があることが判明し、「あり」側に移しました。いずれも収入証明書の提出や家計審査が要項に書かれており、トップページの記載だけで判断していたことが初版の誤りの原因でした
- 「非公表」と断定していた基準額が、実は公表されていた。 ダイオーズ記念財団・川村育英会・マブチ国際育英財団の3件は、初版で「非公表」としていましたが、募集要項まで確認すると具体的な基準額が公表されていました。具体的な収入基準を公開している制度は当初の想定より多く、「非公表」と書く前に要項やFAQまで掘る必要があると分かりました
- 「所得制限あり」の中身の幅も大きい。 金額を公開している制度だけでも、電通育英会(両親の住民税課税所得の合計350万円未満相当)から三菱UFJ信託奨学財団(父母の年収合計が税込1,000万円未満)、慶應義塾大学 学問のすゝめ奨学金(父母合算で給与・年金収入1,200万円未満)まで開きがあります。基準の取り方も税込年収・課税所得・給与収入と制度ごとに異なっており、「所得制限あり」の一言では対象範囲を判断できない、というのがこの表を作って見えたことです
- 制度変更をまたぐと古い数値が残りやすい。 JASSO第IV区分の目安を初版で「約380万円以下」と書いていましたが、これは旧制度(3区分時代)に近い古い数字で、現行の公式目安表では約698万円以下でした。制度改正があった項目は古い数字がそのまま流通しやすく、二次情報経由の数値は特に注意が必要だと感じました
調査ノート
調べたこと
- 48件の奨学金のrequiresIncome(所得制限の有無)を集計: 32件(67%)が所得制限あり、16件が所得制限なし(2026年7月22日の横断監査で全件を公式再確認)
- 所得制限の4パターンを分類(JASSO区分制/具体的金額公開/経済的困難表現/JASSO準拠)
- 所得制限なしの16制度の選考基準を整理(成績重視型/入試成績型/人物重視型/分野限定型)
- 所得制限と成績要件の組み合わせパターンを確認
- 具体的な所得上限額を公開している制度の特定(大林財団: 800万円以下、ダイオーズ記念財団: 給与世帯600万円未満、川村育英会: 原則600万円以下、マブチ国際育英財団: 600万円未満、JASSO: 区分別に公開)
調べられなかったこと
- 「経済的困難」と記載している制度の具体的な所得上限額(大半が非公開)
- 各制度における所得基準の実際の適用状況(ボーダーライン上の扱い)
- 所得制限の緩和・厳格化のトレンド(年度による変更の有無)
- 共働き世帯・ひとり親世帯での基準の違い
- 資産(貯蓄・不動産等)を審査に含めるかどうかの制度ごとの違い
出典
この記事で言及した各制度の出典は、個別の奨学金ページに記載しています。
- 給付型奨学金 金額比較表 — 39件の給付型奨学金の金額横断比較
※ このサイトは個人が運営する調査ノートです。特定の制度を推奨するものではありません。 ※ 最新の募集要項は必ず各制度の公式ページでご確認ください。
更新履歴(2026年8月3日 月次監査)
- 「所得制限も成績要件もない制度は48件中3件」を5件に訂正。 フロントマターを数え直すと該当は5件(岩國育英財団・キーエンス財団・コカ・コーラ教育・環境財団・中谷財団・トヨタ女性技術者育成基金)でした。2×2表のセルから中谷財団とトヨタ女性技術者育成基金が漏れていたもので、中谷財団については同じ記事のすぐ下の段落で「所得証明の提出自体が不要」と自分で書いているにもかかわらず、表では拾えていませんでした
- カギ括弧の「公式引用」2件を逐語に修正。 帝人久村奨学金の選考方針は、公式の原文が「本奨学金では、経済的困窮度よりも、成績、本人の研究への熱意・長期ビジョン、取組み内容、主体性・独創性を総合的に評価して選考します。」で、当サイトの引用は要約でした。博報堂教育財団の「世帯年収による制限はありません」も一次資料に対応する文言がなく、事実ベースの表現に置き換えています
- 森下仁丹奨学会の用語を公式に合わせて修正。 公式の表記は「所得基準」ではなく「家計基準」で、令和8年度募集要項は「日本学生支援機構第1種に準ずる。大学院生についても日本学生支援機構の学部生と同等の家計基準を適用する。」と記載しています
- 検証して問題なしと確認できた項目: 48件中32件(67%)が所得制限あり・16件がなしという骨格はフロントマターと1件ずつ照合して一致。最重要のJASSO第III区分461万円・第IV区分698万円もJASSO公式で逐語確認でき、過去に事故を起こした「第IV区分は年収約380万円以下」(3区分時代の古い数字)の再発はありませんでした。パターン2の収入上限額10件のうち8件も公式要項・事業計画書で逐語一致を確認しています