「奨学金 年収制限」で検索すると、「年収380万円まで」「590万円まで」「600万円まで」と、サイトによって違う数字が出てきます。どれが正しいのか、そもそもなぜ数字が揃わないのか。JASSO(日本学生支援機構)の給付型奨学金(高等教育の修学支援新制度)について、公式の一次資料で判定の仕組みを調べました。
先に種明かしをすると、この制度に「年収○万円まで」という基準は存在しません。判定に使われるのは年収ではなく、住民税の課税情報から計算される「支給額算定基準額」という別の数字です。年収の目安はあくまでこの基準額から逆算した参考値で、家族構成や控除の状況で大きく動きます。「同じ年収なのに隣の家は通って、うちは落ちた」が起こり得る構造です。
結論サマリー
- 判定は年収ではなく**「支給額算定基準額」= 課税標準額 × 6% −(調整控除額 + 調整額)**で行われる
- 区分の境界は 100円 / 25,600円 / 51,300円 / 154,500円。この4つの数字がすべて
- 年収目安は、母子2人世帯で第I区分229万円〜第IV区分649万円、片働き4人世帯で第I区分295万円〜第IV区分698万円(給与所得者の場合)
- 自営業(非給与所得者)は「年収」ではなく所得ベースで、目安の数字は給与の場合よりかなり低く見える
- 収入基準とは別に資産基準(本人+生計維持者2人で5,000万円未満)がある
- 第IV区分は特殊枠: 多子世帯なら給付月額は第I区分の1/4、私立理工農系(多子でない場合)は給付0円(授業料減免のみ)
区分と支給額の関係
給付型奨学金は、世帯の経済状況に応じて第I〜IV区分に分かれ、区分ごとに支給月額が変わります。月額の全マトリクス(国公立/私立 × 自宅/自宅外)はJASSO給付型奨学金のページにまとめているので、ここでは代表値だけ示します。
| 区分 | 支給額の水準 | 私立・自宅外の月額(例) |
|---|---|---|
| 第I区分 | 満額 | 75,800円 |
| 第II区分 | 満額の2/3 | 50,600円 |
| 第III区分 | 満額の1/3 | 25,300円 |
| 第IV区分(多子世帯) | 満額の1/4 | 19,000円 |
| 第IV区分(私立理工農系) | 給付0円(授業料減免のみ) | — |
※ 掲載金額は調査時点のものです。年度により変更される場合があります。
判定の仕組み — 年収ではなく「支給額算定基準額」
JASSOの公式ページ(在学採用の家計基準)には、収入基準の判定式が明記されています。
支給額算定基準額 = 課税標準額 × 6% −(調整控除額 + 調整額)
- 100円未満は切り捨て
- 政令指定都市に住民税を納めている場合は「(調整控除額 + 調整額)× 3/4」で計算
- 市町村民税が非課税なら0円
- 学生本人と生計維持者(原則は父母2人)の基準額を合算して判定
この基準額が次の範囲のどこに入るかで、区分が決まります。
| 区分 | 支給額算定基準額(本人+生計維持者の合計) |
|---|---|
| 第I区分 | 100円未満(実質、住民税非課税世帯) |
| 第II区分 | 100円以上 25,600円未満 |
| 第III区分 | 25,600円以上 51,300円未満 |
| 第IV区分 | 51,300円以上 154,500円未満 |
「課税標準額」は、収入から給与所得控除や社会保険料控除・扶養控除などの所得控除をすべて引いた後の、住民税(所得割)の計算のもとになる金額です。毎年6月頃に受け取る住民税決定通知書や、市区町村で発行される課税証明書に記載されています。実際の申込みではマイナンバーからJASSOが直接税情報を取得するため、自分で計算して申告するわけではありませんが、進学資金シミュレーターで事前に試算する場合はこの数字を使います。
年収の目安 — 公式の目安表(給与所得者)
JASSOは2026年度在学採用の案内で、家族構成別の年収目安を公表しています。金額は「年間の収入金額(税込)」の目安です。
| 世帯構成 | 第I区分 | 第II区分 | 第III区分 | 第IV区分 |
|---|---|---|---|---|
| 2人世帯(本人・母) | 229万円 | 332万円 | 402万円 | 649万円 |
| 3人世帯(本人・母・高校生) | 289万円 | 391万円 | 457万円 | 677万円 |
| 4人世帯(本人・父母の一方が無収入・高校生) | 295万円 | 395万円 | 461万円 | 698万円 |
共働きの場合は、両親それぞれの年収の組み合わせで示されています。たとえば4人世帯(本人・父母とも給与収入・高校生)では、第I区分の目安が「親A 295万円・親B 115万円」、第IV区分が「親A 656万円・親B 155万円」という形です。単純に「世帯合算でいくら」とは書かれていない点に注意が必要です。
※ 目安表は2026年度在学採用の公式案内より。あくまで目安であり、実際の判定は前述の支給額算定基準額で行われます。
自営業の場合 — 「年収」ではなく「所得」で見る
非給与所得者(自営業・フリーランス等)の世帯では、目安の数字がまったく変わります。公式の目安表では、こちらは「所得」(収入から必要経費を引いた額)ベースです。
| 世帯構成 | 第I区分 | 第II区分 | 第III区分 | 第IV区分 |
|---|---|---|---|---|
| 2人世帯(本人・母) | 144万円 | 212万円 | 272万円 | 452万円 |
| 3人世帯(本人・母・高校生) | 182万円 | 257万円 | 311万円 | 494万円 |
| 4人世帯(本人・父母の一方が無収入・高校生) | 196万円 | 277万円 | 348万円 | 526万円 |
「自営業で所得350万円だと対象になるのか」という検索が実際に多いのですが、この表で見ると、たとえば4人世帯の所得350万円は第III区分の目安(348万円)とほぼ同じ、つまり第III区分と第IV区分の境界線上です。この位置だと、控除の状況ひとつで区分が1つ動くため、目安表だけで結論は出ません。住民税の課税標準額を使って計算するか、シミュレーターの詳細計算を使う必要があります。
「同じ年収なのに結果が違う」のはなぜか
「奨学金 所得制限 おかしい」という検索がそれなりにあります。調べた範囲では、「おかしく」見える結果の多くは、判定が年収ではなく課税標準額ベースであることから説明がつきます。
- 所得控除の差がそのまま効く。 iDeCoの掛金(小規模企業共済等掛金控除)、社会保険料、生命保険料、医療費控除などが多い世帯は課税標準額が下がり、同じ年収でも区分が有利になることがあります
- 家族構成で控除が変わる。 扶養している家族の数・年齢で扶養控除が変わります。目安表の年収が世帯構成ごとに違うのはこのためです
- 共働きは2人分の合算。 生計維持者2人の基準額を合算するため、「夫の年収だけならセーフだったのに」というケースが起こります
- 見るのは前年(またはさらに前)の所得。 判定に使われる住民税情報は過去の所得を反映したものなので、今年収入が下がっても、すぐには区分に反映されません(失職など急変の場合は別途「家計急変採用」があります)
つまり、他の家庭の「年収○万円で通った/落ちた」という体験談は、控除と家族構成が違う以上、自分の家にはそのまま当てはまらないということです。
第IV区分だけ特殊ルールがある
第IV区分(基準額51,300円以上154,500円未満)は、2024年度に追加された「中間層向け」の枠ですが、誰でも入れるわけではありません。対象は2パターンだけです。
- 多子世帯(扶養する子どもが3人以上): 給付月額は第I区分の1/4(私立・自宅外で月19,000円)+ 授業料等減免
- 多子世帯ではないが、私立の理工農系学科等に在籍: 給付奨学金は0円。支援は授業料等減免のみ
「第IV区分に該当」とシミュレーターに表示されても、理工農系枠の場合は毎月の振込みは1円もない、という点は誤解しやすいところです(この表示の読み方はシミュレーターの記事で詳しく書きました)。
なお、多子世帯については2025年度から授業料等減免の所得制限自体が撤廃されたため、減免だけなら第IV区分の基準を超えていても受けられます。第IV区分の判定が意味を持つのは「給付型奨学金(生活費への支援)が出るかどうか」の部分です。詳しくは多子世帯の大学無償化の記事にまとめています。
収入基準だけではない — 資産基準
見落としやすいのですが、収入基準を満たしていても、学生本人と生計維持者の資産の合計が基準以上だと対象外になります。
- 生計維持者2人の場合: 5,000万円未満であること(申込日時点)
- 対象になる資産: 現金、預貯金、有価証券(株式・投資信託等)、満期・解約となった保険金など
- 不動産は対象外(持ち家があっても資産には数えない)
資産額はマイナンバーでは把握されず自己申告ですが、虚偽申告が発覚した場合は支援打ち切り・返還の対象になります。
基準を超えていた場合に残る選択肢
調べた範囲では、収入基準オーバーでも次の道があります。
- 多子世帯なら授業料等減免(所得制限なし): 2025年度から。給付型奨学金は出ませんが、授業料・入学金は上限額まで減免されます → 多子世帯の大学無償化
- JASSO貸与型: 第一種(無利子)は給付型より緩い基準(2026年度の公式目安は4人世帯・給与所得で約803万円以下)、第二種(有利子)はさらに広い(同約1,250万円以下が目安)。なお第二種の利率は上昇傾向で、2026年度は固定方式2.9%台です
- 所得制限のない民間奨学金: 当サイトで調べた51件のうち17件は所得制限がありませんでした → 所得制限の記事
調べてみて気づいたこと
- 「年収○万円まで」という情報は、ほぼすべて不正確。 目安表の数字は「モデル世帯でこのくらい」という逆算値で、実際の基準は支給額算定基準額の4つの境界(100円/25,600円/51,300円/154,500円)だけです。ネット上の「590万まで」「600万まで」という記述は、特定の世帯構成の目安が一人歩きしたものでした
- 当サイトの過去記事にも古い数字が残っていました。 所得制限の記事に「第IV区分は4人家族で年収約380万円以下」と書いていましたが、これは3区分時代(第III区分まで)の目安に近い数字です。現行の公式目安表では第IV区分は649万〜698万円で、今回あわせて修正しました。制度が2024年度・2025年度と連続で変わっており、1〜2年前の情報がすでに古くなる領域です
- 自営業の「350万円」は境界線上。 検索クエリで目立つ「自営業・所得350万円」は、4人世帯の第III/IV区分の境界(348万円)とほぼ一致します。同じ数字で調べている人が多いのは、シミュレーターの結果画面と目安表の間で迷っているからだと推測します
- 判定式そのものは公開されているのに、課税標準額を知らないと使えない。 式は「課税標準額×6%−調整控除」と明快ですが、自分の課税標準額を即答できる人はまずいません。住民税決定通知書を見れば書いてあるのですが、「どの書類のどの欄か」までセットで説明している公式ページは見つけにくかったです
出典・公式リンク
出典:
- 給付奨学金の家計基準(在学採用)(JASSO)(2026年7月調べ)
- 給付奨学金(第4区分)について(JASSO)(2026年7月調べ)
- 給付奨学金の支給額(JASSO)(2026年7月調べ)
- 高等教育の修学支援新制度(文部科学省)(2026年7月調べ)
調査ノート
調べたこと
- 支給額算定基準額の計算式(課税標準額×6%−調整控除等、政令指定都市の特例、100円未満切り捨て)
- 第I〜IV区分の境界額(100円/25,600円/51,300円/154,500円)
- 家族構成別の年収・所得目安(給与所得者/非給与所得者 × 2〜5人世帯 × 4区分の公式目安表)
- 資産基準(生計維持者2人で5,000万円未満、不動産は対象外)
- 第IV区分の2つの対象パターン(多子世帯=給付1/4、私立理工農系=給付0円・減免のみ)
- 貸与型(第一種・第二種)の年収目安との比較
調べられなかったこと
- 生計維持者が1人の場合の資産基準額(公式ページの記載は「2人の場合5,000万円未満」。1人の場合の額は要確認)
- 目安表のモデル世帯の詳細な前提(本人・きょうだいの年齢設定、社会保険料等の控除の置き方)
- 私立理工農系枠(第IV区分)の授業料減免の具体額
- 5人世帯以上の年収目安(公式表は5人世帯まで)
※ このサイトは個人が運営する調査ノートです。公的機関ではありません。 ※ 掲載情報は調査時点のものです。最新の基準・金額は必ずJASSO・文部科学省の公式ページでご確認ください。 ※ 奨学金の申請判断は、ご自身の状況に応じて行ってください。当サイトは特定の制度を推奨するものではありません。