2025年度(令和7年度)から、「子どもを3人以上扶養している世帯の大学授業料・入学金が所得制限なしで無償になる」という制度が始まりました。いわゆる「多子世帯の大学無償化」です。
ニュースの見出しだけを見ると「3人きょうだいなら大学がタダになる」と読めますが、文部科学省とJASSO(日本学生支援機構)の一次資料を読み込むと、「無償」という言葉から想像する姿とはかなり違うことが分かりました。このノートでは、制度の中身と、調べていて「ここは誤解しやすい」と感じたポイントを整理します。
結論サマリー
- 減免されるのは授業料と入学金だけ。生活費(給付型奨学金)は別制度で、従来どおり所得制限がある
- 減免には上限額がある(私立大学の授業料で年70万円まで)。上限を超える分と施設整備費・実習費は自己負担
- 「扶養する子ども3人以上」は税情報で判定される。実際の家族構成ではなく、住民税上の扶養親族の数で決まる
- 第1子が就職して扶養から外れると、在学中でも支援は終了する。ここが最大の落とし穴
- 申請はJASSO(スカラネット)と在学校の両方に必要。在学生も年2回(4月頃・9月頃)申し込める
制度概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式な位置づけ | 高等教育の修学支援新制度の多子世帯支援(令和7年法律第17号による拡充) |
| 開始 | 2025年度(令和7年度)〜 |
| 対象 | 扶養する子どもが3人以上の世帯の学生(所得制限なし) |
| 対象校 | 大学・短期大学・高等専門学校(4・5年)・専門学校のうち国の確認を受けた学校 |
| 支援内容 | 授業料・入学金の減免(国が定める上限額まで) |
| 対象外 | 大学院生、生活費(給付型奨学金は別判定)、施設整備費・実習費 |
※ 制度内容は調査時点(2026年7月)のものです。最新情報は必ず公式ページでご確認ください。
減免の上限額 — 「無償」には上限がある
減免上限額(年額)は校種と国公立・私立で異なります。
| 校種 | 国公立 入学金 | 国公立 授業料 | 私立 入学金 | 私立 授業料 |
|---|---|---|---|---|
| 大学 | 28万円 | 54万円 | 26万円 | 70万円 |
| 短期大学 | 17万円 | 39万円 | 25万円 | 62万円 |
| 高専(4・5年) | 8万円 | 23万円 | 13万円 | 70万円 |
| 専門学校 | 7万円 | 17万円 | 16万円 | 59万円 |
国立大学の授業料標準額は年53万5,800円(省令で規定。近年は2割増を上限に引き上げた大学もあります)なので、標準額どおりの大学なら上限54万円でほぼ全額がカバーされます。一方、私立大学では授業料がこの上限を上回ることが多く、70万円を超える分は自己負担です。さらに注意が必要なのは、減免の対象が学則上の「授業料」「入学金」に限られる点です。施設整備費や実習費として別に徴収されるお金は対象外と、文部科学省のQ&Aに明記されています。
また、入学金の減免を受けるには入学後3か月以内の申請が必要です。2年生になってから初めて申請した場合、入学時に払った入学金は遡って減免されません。入学前に入学金を納めた場合は、入学後に減免が確定してから還付される扱いです。
「扶養する子ども3人以上」の数え方
多子世帯の要件は、①扶養する子どもの数が3人以上であること、②学生本人がその扶養に入っていること、の2点です。ただし①の「子どもの数」の数え方に癖があります。JASSOは「以下のうちいずれか小さい方の数が3以上」とし、(a)奨学金申込時に申告した生計維持者の扶養親族のうち生計維持者の「子ども」に該当する者の数、(b)生計維持者全員の住民税情報における扶養親族の数の合計、の2つを比較する形で判定します。実際の子どもの人数がそのまま通るわけではありません。
- 実際の家族構成ではなく、住民税の課税情報で判定される。 文科省Q&Aは「確認対象となる税情報は、世帯年収の確認の考え方と同様、原則として申請時点で決定している前年以前の年末(12 月 31 日)時点です。」としています。「前年」と限らず**「前年以前」**である点に注意が必要で、住民税決定前の春(4〜5月)に申し込む場合は前々年末時点の情報が使われることがあります
- 毎年夏頃に最新の住民税情報が確認され、その結果が10月以降の支援額に反映されます
- アルバイト収入が多いきょうだいは「扶養する子ども」に数えられないことがあります。現在は年収103万円以下がカウント対象ですが、税制改正を受けて令和8年10月分の判定からは123万円以下に、大学生年代(19歳以上23歳未満)は160万円以下まで広がります(個人事業の場合は事業所得95万円以下)
- 税情報の確定後に生まれた子どもは、時期に応じて申告により算入できます
「3人きょうだいのはずなのに対象にならない」というケースの多くは、この税情報とのズレ(上の子のバイト収入で扶養から外れていた等)が原因になりそうです。
最大の落とし穴 — 第1子が就職すると支援が終わる
この制度は「子ども3人以上を同時に扶養している間」だけの支援です。文部科学省のQ&Aにははっきりこう書かれています。
第1子が扶養から外れ、扶養する子供の数が2人となった場合は、本制度における「多子世帯」ではなくなるため、多子世帯としての支援は終了します。
例えば3人きょうだいで、第1子が大学4年・第2子が大学1年のケース。第2子の入学年は2人とも減免を受けられますが、翌年に第1子が就職して扶養を外れると、第2子は在学中でも支援が打ち切られます(税情報の更新を経て10月以降の支援額に反映)。第1子が大学院に進学して扶養に入ったままなら、第2子の支援は続きます。
「4年間ずっと無償」を前提に進学計画を立てると、途中から年70万円の負担が復活する可能性があります。きょうだいの年齢差と卒業・就職のタイミングを先に確認しておくのが現実的です。
給付型奨学金(生活費)は別 — 「無償化」でも生活費は出ない
もう一つの大きな誤解ポイントは、給付型奨学金との関係です。高等教育の修学支援新制度は「授業料等減免」と「給付型奨学金」の2本立てですが、多子世帯支援で所得制限がなくなったのは授業料等減免だけです。
| 世帯の状況 | 授業料等減免 | 給付型奨学金(生活費) |
|---|---|---|
| 多子世帯かつ低所得(第I〜IV区分) | 上限額まで満額 | 区分に応じた額を支給 |
| 多子世帯だが所得が区分IVを超える | 上限額まで満額 | 支給なし |
給付型奨学金(第I区分・住民税非課税世帯の場合で、国公立大の自宅生なら年約35万円、自宅外生なら年約80万円)は、従来どおり世帯の所得区分で決まります。つまり中間層以上の多子世帯では、授業料は減免されても、下宿代や生活費への支援はゼロです。「多子世帯 自宅外」で調べている方が気にしているのはここだと思いますが、自宅外通学向けの上乗せがあるのは給付型奨学金の側で、授業料減免の額は自宅・自宅外で変わりません。
なお、資産基準にも差があります。本人と生計維持者の資産合計が5,000万円以上だと給付型奨学金は0円ですが、3億円未満であれば多子世帯の授業料等減免は対象になります。
申請方法 — 「いつから・どこに」
申請先は2か所です。給付型奨学金はJASSOへ(スカラネットで申込)、授業料等減免は在学校へ。それぞれ別に申し込む必要があります。多子世帯支援を含め、要件の確認はマイナンバーを通じてJASSOが行うため、書類の重複提出は不要な設計になっています。
- 進学前(高校3年生): 予約採用に高校を通じて申込(例年4〜7月頃)
- 在学中: 在学採用に年2回申し込める。4〜5月頃の申込なら4月分から、9〜10月頃の申込なら10月分からの支援
- 家計急変(生計維持者の死亡・失職・災害等)の場合は随時申込可
- すでに在学中の学生(2年生以上)も対象。ただし前述のとおり入学金の減免だけは入学後3か月以内
「いつ振り込まれるのか」という疑問については、授業料等減免は振込ではありません。大学からの授業料請求額が減る(納付済みの場合は還付される)形です。一方、給付型奨学金に該当する場合は月々の振込です。文部科学省は、減免対象と認められるまでの間は授業料の納付を猶予するよう各大学に依頼していますが、実際の取り扱い(猶予か、一旦納付して還付か)は大学によって異なるので、進学先に確認が必要です。
成績の条件 — 所得は問われないが学業は問われる
所得制限なし・成績優秀者限定でもない、とはいえ学業の要件はあります。
- 採用時: 高校の評定平均3.5以上、または入学試験の成績が入学者の上位1/2、または学修計画書等で学修意欲を確認(1年次の場合)。2年次以上はGPA上位1/2、または標準単位数の修得+学修計画書
- 採用後(毎年の適格認定): 修得単位数が標準の7割以下、GPAが下位1/4、出席率8割以下などで「警告」。警告が連続すると支援打ち切り
- 留年が確定する(修業年限で卒業できないことが確定する)と支援廃止。正規の手続きによる休学は例外で、休学中は停止・復学後に再開
- 出席率1割以下など学修の実態がない場合や、退学・3か月以上の停学処分を受けた場合は、受けた支援の返還を求められることがある
「無償だから」と気を抜くと、単位不足で警告→打ち切り、最悪の場合は遡って返還というルートがあり得ます。
よくある疑問への短い答え
- 高校の無償化とは別の制度? — 別です。この制度の対象は大学・短大・高専(4・5年)・専門学校で、高校の授業料支援は高等学校等就学支援金という別制度です
- 大学院生は? — 対象外です(文科省Q&Aに明記。大学院には貸与型の返還免除等の別の支援があります)
- JASSOの貸与型奨学金と併用できる? — できます。ただし第一種(無利子)は併給調整で貸与上限が減額されます
- 民間財団の奨学金と併用できる? — 国の制度側からは併用可能で、制限があるかどうかは各財団の規定次第です。当サイトの併用パターンの記事も参考にしてください
- 大学独自の減免と併用できる? — 可能です。国の減免を先に適用し、大学独自の支援を上乗せする形が想定されています
調べてみて気づいたこと
- 「無償化」という言葉が実態より大きい。 実際は「授業料・入学金を上限額まで減免」で、私立大学では差額も施設整備費も残ります。総費用に対するカバー率は、国公立自宅生なら高く、私立自宅外生ではかなり下がる。同じ「多子世帯」でも進路によって恩恵の大きさがまったく違います
- 判定が「実際の家族」ではなく「税情報」で行われる。 上の子のアルバイト年収が数万円違うだけで、下の子の授業料減免70万円が消えるという構造です。103万円→123万円/160万円への基準変更(令和8年10月分から)は、まさにこのミスマッチへの対処で、制度が走りながら直されている印象を受けました
- 支援の終わりが「下の子の卒業」ではなく「上の子の自立」で決まる。 家計の計画としては、支援がいつ始まるかより「いつ終わるか」の方が影響が大きいと感じます。きょうだいの年齢差が4歳以上あると、下の子は在学途中で減免を失う可能性が高い設計です
- 規模は大きい。 令和8年度予算では、授業料等減免費交付金が5,178億円(修学支援新制度全体では7,133億円・地方負担分565億円を含む)。同じ資料の図には対象人数として約47万人と約33万人の2つが示されています。ただしこの資料は「住民税非課税世帯等」「中間層(多子世帯・理工農系)」「多子世帯(所得制限なし)」の3層をまとめて描いており、どの数値が多子世帯支援分なのかは資料上特定できませんでした(調査ノート参照)。いずれにせよ「知る人ぞ知る制度」ではなく対象者は広い規模ですが、申請しないと1円も減免されません
- 情報が文部科学省とJASSOに分かれていて追いにくい。 減免は文科省・大学、給付型奨学金はJASSOと所管が分かれており、一次資料を通読しないと全体像がつかめませんでした。この記事が53ページのQ&Aを読む時間の節約になれば幸いです
出典・公式リンク
出典:
- 高等教育の修学支援新制度(文部科学省)(2026年7月調べ)
- 令和7年度からの多子世帯に対する大学等の授業料等減免について(文部科学省・PDF)(2026年7月調べ)
- 修学支援新制度に関する質問と回答(Q&A)令和8年3月版(文部科学省・PDF)(2026年7月調べ)
- 多子世帯支援について(JASSO)(2026年7月調べ)
調査ノート
調べたこと
- 減免上限額の校種別・設置者別の正確な金額(文科省資料)
- 「扶養する子ども3人以上」の判定方法(税情報基準、いわゆる103万円の壁の見直しを含む)
- 第1子が扶養から外れた場合の支援終了の扱い
- 給付型奨学金(生活費支援)と授業料等減免の関係・資産基準の違い
- 申請の窓口・時期(予約採用・在学採用・家計急変)、入学金減免の3か月ルール
- 採用時・継続時の学業要件と、支援の警告・停止・廃止・返還の基準
調べられなかったこと
- 初年度(2025年度)の実際の利用者数・申請率(実績の公表は未確認)
- 令和8年度予算のうち多子世帯支援分だけの対象人数・予算額の内訳。文科省の資料は修学支援新制度全体の枠組みで数値を示しており、多子世帯分を切り出した一次資料に到達できませんでした
- 私立大学ごとの「授業料と上限70万円の差額」の実態分布
- 制度開始に伴う授業料の「便乗値上げ」が実際に起きているかどうか(文科省は指導の方針を示しているが、個別事例は未確認)
- 各大学での納付猶予・還付の運用の違い
※ このサイトは個人が運営する調査ノートです。公的機関ではありません。 ※ 掲載情報は調査時点のものです。最新の要件・金額は必ず文部科学省・JASSO・進学先の公式情報でご確認ください。 ※ 進学・申請の判断は、ご自身の状況に応じて行ってください。