JASSO(日本学生支援機構)の「進学資金シミュレーター」は、給付型・貸与型奨学金の対象になりそうかを事前に試算できる公式ツールです。ただ、実際に使ってみると、結果画面に出てくる「第IV区分(理工農系)」「支援対象外」といった表示の意味がわかりにくく、「結局うちはいくらもらえるのか」で止まってしまいます。
検索データを見ても、「進学資金シミュレーター 第IV区分 理工農 350万円」「自営業 所得」のような、シミュレーターの結果を見た後で意味を調べていると思われるクエリが目立ちます。このノートでは、シミュレーターの入力に必要なもの、会社員と自営業の入力の違い、そして結果の読み方を、JASSOの一次資料に基づいて整理しました。
結論サマリー
- シミュレーターは無料・匿名・登録不要。JASSO公式の試算ツール(shogakukin-simulator.jasso.go.jp)
- 精度を上げたいなら、住民税決定通知書か課税証明書を手元に用意して「課税標準額」「調整控除額」を入力する
- 会社員は「年収(税込)」、自営業は「所得(収入−必要経費)」を入れる。この違いを間違えると結果が大きくずれる
- 「第IV区分(多子世帯)」= 給付は満額の1/4。「第IV区分(理工農系)」= 給付0円、授業料減免のみ
- シミュレーション結果はあくまで目安。実際の判定はマイナンバーで取得される税情報で行われ、結果が変わることがあるとJASSO自身が明記している
シミュレーターで何がわかるのか
進学資金シミュレーターでは、次のことが試算できます。
| 試算できること | 内容 |
|---|---|
| 給付型奨学金の対象か | 第I〜IV区分のどれに該当しそうか、月額いくらか |
| 授業料等減免の対象か | 減免の区分(給付型と連動) |
| 貸与型奨学金の対象か | 第一種・第二種の収入基準を満たしそうか |
| 進学にかかるお金の計画 | 進学費用と支援額を合わせた資金計画 |
大事な前提として、シミュレーターの結果は申込みでも予約でもありません。JASSOのページには「シミュレーション結果と実際の申込結果は異なる場合があります」と明記されています。
入力の前に用意するもの — 「課税標準額」はどこに書いてあるか
シミュレーターには、ざっくり年収を入れるだけの簡易的な使い方と、住民税の情報を入力して精度を上げる使い方があります。給付型奨学金の判定は、実際には年収ではなく**課税標準額から計算される「支給額算定基準額」**で行われるため(判定の仕組みの記事に詳しく書きました)、境界線に近い世帯ほど住民税情報での入力に意味があります。
必要な数字は2つです。
- 課税標準額(市町村民税の課税標準額)
- 調整控除額
この2つは、次のどちらかの書類で確認できます。
| 書類 | 入手方法 | 手元に来る時期 |
|---|---|---|
| 住民税決定通知書(特別徴収税額通知書) | 会社員なら勤務先経由で配布 | 毎年5〜6月頃 |
| 課税証明書(所得証明書) | 市区町村の窓口・コンビニ交付 | 随時(手数料あり) |
なお、実際の申込みではマイナンバーを提出し、JASSOが税情報を直接取得します。つまり自己申告の数字で合否が決まるわけではなく、この入力はあくまで事前試算のためのものです。
会社員と自営業で入力が違う — 「年収」と「所得」
シミュレーターでつまずきやすいのが、収入の入れ方です。
- 給与所得者(会社員・パート): 税金や社会保険料が引かれる前の**年収(税込)**を入力
- 非給与所得者(自営業・フリーランス・農業等): 収入から必要経費を引いた所得を入力
この2つは水準がまったく違います。JASSO公式の目安表でも、たとえば4人世帯(本人・父母の一方が無収入・高校生)の第III区分の目安は、給与所得者なら年収461万円、非給与所得者なら所得348万円です。自営業の人が売上(収入)をそのまま入れると実態より厳しい結果が、逆に給与の人が手取りを入れると実態より甘い結果が出ます。
検索でよく見かける「自営業・所得350万円」は、4人世帯では第III区分と第IV区分のちょうど境界線上にあたり、シミュレーターの簡易入力では確定できないケースです。家族構成別の目安表と、境界線上で区分が動く要因の詳細は判定の仕組みの記事にまとめたので、該当する場合は住民税情報での詳細入力に進むことになります。
2026年7月31日更新: 自営業・所得350万円の境界の詳細解説は判定の仕組みの記事側に集約し、本記事では要旨のみに圧縮しました。
結果の読み方 — 区分表示の意味
シミュレーターの結果に表示される区分の意味は次の通りです。
| 結果の表示 | 給付型奨学金 | 授業料等減免 |
|---|---|---|
| 第I区分 | 満額(私立・自宅外で月75,800円) | 上限額まで満額 |
| 第II区分 | 満額の2/3 | 満額の2/3 |
| 第III区分 | 満額の1/3 | 満額の1/3 |
| 第IV区分(多子世帯) | 満額の1/4 | 上限額まで満額※ |
| 第IV区分(理工農系) | 0円(振込なし) | 理工農系向けの減免のみ |
| 支援対象外 | なし | なし※ |
※ 多子世帯(扶養する子ども3人以上)は、2025年度から授業料等減免に限り所得制限なしで満額対象です。給付型奨学金が「支援対象外」でも、多子世帯なら減免は受けられます → 多子世帯の大学無償化の記事
「第IV区分(理工農系)」= 毎月の振込はない
いちばん誤解しやすいのがここです。第IV区分の理工農系枠は、多子世帯ではない世帯の学生が私立の理工農系学科等に在籍する場合に適用されますが、JASSO公式ページにははっきりこう書かれています。
給付奨学金の支給額は0円となります。(給付奨学金は振り込まれません。)
つまり「第IV区分に該当します(理工農系)」という結果は、「毎月お金がもらえる」ではなく「授業料の減免だけ受けられる(文系学部との差額を埋める趣旨の支援)」という意味です。生活費への支援を期待していると、入学後に「振り込まれない」と混乱することになります。
「支援対象外」でも終わりではない
シミュレーターで対象外と出た場合も、基準を超えた場合の選択肢で書いたとおり、多子世帯の授業料減免(所得制限なし)、貸与型(2026年度の公式目安は4人世帯・給与所得で第一種が約803万円以下、第二種が約1,250万円以下)、所得制限のない民間奨学金という道が残っています。
シミュレーション結果と実際の判定がずれる理由
調べた範囲では、ずれの原因は主に3つあります。
- 使われる税情報の年度。 実際の判定は、申込時期に応じた最新の住民税情報(前年所得ベース)で行われます。シミュレーターに一昨年の源泉徴収票の数字を入れると、その分ずれます
- 毎年10月の見直し。 採用後も支援区分は毎年見直され、10月から翌年9月までの区分が更新されます。入学時の区分が4年間続くとは限りません(見直しの流れは振込日と採用通知の記事にまとめました)
- 資産基準は自己申告。 シミュレーターは資産(預貯金等)を考慮しない簡易判定です。実際の申込みでは本人+生計維持者の資産合計が基準以上(2人で5,000万円以上)だと、収入基準を満たしていても対象外になります
調べてみて気づいたこと
- 「第IV区分」という同じ名前で、もらえる額が月19,000円〜0円まで違う。 多子世帯枠と理工農系枠がひとつの区分に同居しているのが、混乱の最大の原因だと感じました。検索クエリに「第IV区分 理工農 350万円」のような長い組み合わせが多いのは、結果画面を見ても結論がわからず、条件を足して検索し直している人が多いからだと推測します
- 自営業の入力ミスは構造的に起こりやすい。 「年収を入力してください」と聞かれて、自営業の人が確定申告書の「収入金額」と「所得金額」のどちらを入れるべきか迷うのは当然です。公式目安表が給与=年収、自営業=所得と別の物差しになっていることを知ってから使うと、結果の見え方が変わります
- シミュレーターは「対象かどうか」より「境界線上かどうか」を知る道具。 目安表から明らかに離れた世帯(大きく下回る/上回る)なら結果は安定しますが、境界線上の世帯は簡易入力では確定しません。境界に近いと分かったら、住民税決定通知書を出してきて詳細入力する、という二段構えが現実的です
- 結果画面のスクリーンショットを保存しておく意味は薄い。 実際の判定はマイナンバー経由の税情報で行われ、しかも毎年10月に更新されるためです。シミュレーターの結果は「申込む価値があるか」の判断材料と割り切る設計になっています
出典・公式リンク
出典:
- 進学資金シミュレーター(JASSO)(2026年7月調べ)
- 進学資金シミュレーターの案内ページ(JASSO)(2026年7月調べ)
- 給付奨学金(第4区分)について(JASSO)(2026年7月調べ)
- 給付奨学金の家計基準(在学採用)(JASSO)(2026年7月調べ)
調査ノート
調べたこと
- シミュレーターで試算できる内容と公式の注意書き(結果と実際の申込結果は異なる場合がある)
- 詳細計算に必要な数字(課税標準額・調整控除額)とその記載書類・入手時期
- 給与所得者と非給与所得者の入力の違い(年収と所得)
- 第IV区分の2パターン(多子世帯=給付1/4、私立理工農系=給付0円)の公式記載
- 実判定とずれる要因(税情報の年度、10月見直し、資産基準)
調べられなかったこと
- シミュレーターの内部計算ロジックの詳細(公式の「利用の手引き」はPDFで公開されているが、判定アルゴリズムそのものの仕様は非公開)
- 入力画面の全項目のリスト(画面遷移の詳細はツール本体を実際に操作しないと確認できず、本記事では公式案内ページの記載範囲にとどめた)
- 理工農系枠の授業料減免の具体的な減免額
※ このサイトは個人が運営する調査ノートです。公的機関ではありません。 ※ 掲載情報は調査時点のものです。最新の基準・金額は必ずJASSOの公式ページでご確認ください。 ※ 奨学金の申請判断は、ご自身の状況に応じて行ってください。当サイトは特定の制度を推奨するものではありません。